”輻射”の語源について
「研究の回想 --マイクロ波と光--」(平成8年5月17日 於京都大学) より抜粋~)
輻射科学研究会の50周年を記念して,今年1年間何回か講演があるそうです.今日は先輩の先生方もおられて話しにくいのですが,私は前座を務めるという意味で皮切りの話しをさせて頂きたいと思います.ただ,輻研のことだけでは,とても時間がもたないと思ったのですが,小倉先生が具合のいい題を考えて下さいましたので,自分のことに輻研の事を絡めればよいと勝手に解釈いたしまして,私が経験したことを中心にお話したいと思います.
やはり最初にその輻研のことを話したいと思います.それから後は個人的な体験が主ですけども,まず,初めて輻研で発表したときのことを御紹介したいと思います.それから,輻研もそうなんですけど,私自身最初はマイクロ波からミリ波に入り,続いて,これはちょっと寄り道かも知れませんが,マイクロ波のアンテナをやり,最後にレーザ(あるいは光エレクトロニクス)の分野に進みました.光の分野では,最初に光変調器の研究に入って,その延長として導波形デバイス,すなわち光の導波路をを使ったデバイス,さらに,光集積回路のところに入って,それから,超高速光エレクトロニクスに進みました.今日は,こういう順序でお話したいと思います.

ここにおられる皆様のかなりの方々は,多分,輻射科学研究会ができたときにはまだ生まれていなかったことと思います.また,若い方は,一体「輻射」というのはどういう言葉であるかと,疑問を持っておられる方も多いでしょう.私自身も,実は輻射というのは何を意味しているのかということを深く考えたことはなく,これは英語のradiation のことだと,単純に考えてきました.しかし,この間,漢和辞典が目の前にあったので,いっぺん「輻」というのはどういう意味かと思って調べてみたら,ちゃんそれらしき意味がありました.「輻」という字は,音読みは「ふく」ですが,訓読みでは「や」と言い,「や」はスポークのことであることがわかりました(図参照). 自転車でも荷車でも,車輪があった場合に,真中から放射状に出てるもの,これが「輻」なんですね.だから,「輻射」というのはまさに電波がこのように放射して行く様子を表している,ちゃんとした言葉であるということになります.ちなみに,漢和辞典には,「輻」のところに出ている単語として輻射以外に,「輻輳」というのがあります.つまり混雑するということですね.輻射というのは外へ出て行くわけですが,輻輳というのはこれと反対で,あちこちから集まってくる,だからここは混雑するということなのだそうです.とんだところで,国語の勉強をさせてもらいました.次に,今度は,学術用語としての「輻射」を考えてみます.御承知のように,最近の学術用語では輻射ではなく「放射」という言葉を使います.普通radiation といえば放射と理解しています.すると,輻射と放射というのはどういう関係にあるのか?そこで,文部省から出ている学術用語集の電気工学編と物理学編というのを調べてみました.電気工学編には,残念ながら,輻射というのは全然ありません.もう完全に追い出されてしまってどこにも見当たりません.いっぽう,物理学編にはありがたいことに輻射というのがちゃんとありました.ただし,輻射というのは放射を見よと…(笑)書いてあるのですね.まあ,かろうじて生き残っているということでしょうか.この用語集(物理学編)には,和英と英和の部分がありますが,和英では放射=radiationとなっており,英和ではradiation =放射の他, 2重カッコの中に輻射と書いてあります. 2重カッコというのは,当分の間使ってもよろしいということです. 21世紀になったら使えなくなるかもわからないのです.
「研究の回想 --マイクロ波と光--」(平成8年5月17日 於京都大学) より抜粋~)